40 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/10/13(月) 18:03:52 ID:.OqOlq.U
岩村がその奇怪なる蛆を纏った住人に引きずり込まれて後、森はしばらくは呆然とすることしかできなかった。
どれくらい時間が経ったか分からないが、森は次第に意識を取り戻し、
とにかくとてもつもないことが目の前で起こったことに改めて思いが向く。
助けに行くべきだろうかと逡巡したが、あのような怪人の住む場所に近づく勇気を、森はどうしても振り絞ることはできなかった。
自分の無力さを深く恥じながらも、とりあえずはその場を離れることにする。
もしも、うかつに近づけば自らもまた岩村のようにあの屋敷に引きずり込まれる可能性がある。
ここは一旦は離れ、様子をうかがうことが賢明だと森は考えたのだ。
すぐに警察に駆け込むことも考えたが、信じてはもらえないだろう。
それに、なんと説明すればよいのだ。
むしろ、不法侵入を行ったのはこちらなのだから、下手をすれば自分が逮捕されかねない。
明日まで待とう。
明日まで待ち、それでも岩村が出勤せず行方をくらましたとなれば警察に駆け込む道理ができる。
それに、岩村はあれでも大の男である。
あの屋敷の中で奮闘し、あの蛆を纏った怪人をのしてひょっこりと出てくる可能性だってあるではないか。
森は震える体をなんとか押さえつけながら、屋敷の門をくぐり外へとでた。
それから、この屋敷の場所を忘れないようにと注意深く、道を進んでゆく。
ああ大丈夫なはずだ。岩村なら明日の朝なにくわぬ顔で会社に顔を出してくれるさ。
いや、それとも今の出来事はまるごと夢なのかもしれぬ。
森はあまりの恐怖に失神寸前であった。
月は不気味に、冷たい色彩を放ち、森の進む道を暗く照らしていた。
(続く)