となりのトロトロ (14)

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1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/07/11(金) 21:56:03 ID:XblbaEpU

ねえ知ってる?このあたりに出るトロトロの話。
え、なにそれ知らない。
あのね、このあたりを歩いてると出てくるんだって。
出てくるってどういうこと?
夕方、暗くなった頃、一人で歩いてると声をかけてくるんだって。
トロトロが?
うん、トロトロが。
トロトロってなに?人?
わかんない。人の形してるけど人かどうか謎なんだって。
なにそれ。
小太りでスーツを着てて首が横に曲がってて「ナリナリ」ってずっと言ってるって。
気持ち悪い。
それでね、子供にしか見えないんだって。
子供にしか?
うん、それも女の子にしか。
うげえ、不気味だね。で、トロトロに話しかけられるとどうなるの?
どこかに連れてかれちゃうんだって。
それって誘拐ってこと?
ううん、違う。何処かに連れてかれて、それでその子もトロトロになっちゃうんだって。
え?トロトロになっちゃうの?
うん、だから気をつけないといけないんだって。トロトロに会わないように。
会わないように気をつけるって、会っちゃったらどうすればいいの?
「アツシアツシアツシ」って唱え続ければいいらしいよ。
なにそれ。おまじない?
よくわかんないけどそれきくと絶叫して消えるらしいよ。
へー、そうなんだ。
絶対に叫び声を上げたり防犯ブザー鳴らしちゃダメなんだって。それやると食べられちゃうらしい。
へー。
だから、絶対気をつけてね、トロトロには。

そんな話をみっちゃんから聞いたのは一週間前のことだった。よくある怪談、都市伝説のたぐいだろうと思って聞いていた。
私自身はそういうホラーな話は好きだから楽しんでいたのだが、信じたりはしない。お話はお話として、フィクションはフィクションとして楽しむに限る。
そもそも、ここは東京港区。大都会の真ん中だ。そんなところにそんなトロトロとやらがでてくるわけがない。
さて、学校が終わったので、家へと向かう。この後、母によるピアノレッスンがあるのだ。
少し学校でみっちゃんたちお友達と話をしすぎたので時間がピンチだ。母は、少しでも遅刻すると顔を真っ赤にして怒るのだ。困ったものだ。
そこで私は普段使わない道を使うことにした。近道というやつだ。
このあたりの道を抜ければ、あのへんに抜けるだろうという予想を立てながらひとつの道を選んだ。
細く先が見えない道。住宅街に入っていく道だが、私は少し不安を覚えた。
見知らぬ道だから、というのもあるだろう。だが、それとは違う言いようのない恐怖が頭をよぎったのだ。
「ナリナリナリ」、突然そんな声が頭の中で響く。みっちゃんの言っていたトロトロの話を思い出す。
いやいやそんなのいるわけない。勇気を出せ。母に怒られる方がよっぽど怖いだろう。
路地に足を踏み入れる。一歩二歩と進んでいく。なぁんだ、平気じゃないか。結局みっちゃんのあれはただの怪談話だったのだ。
それに本当にトロトロがいるとしても「アツシアツシアツシ」と繰り返せばいいと言っていたじゃないか。
私はすっかり気が大きくなって、鼻歌交じりで歩いていた。しかし、変な気配に気がつく。
誰かが、誰かが、私のあとをついてきている…?
私の足音とぴったり合わせるように、後ろから足音が響く。私が止まるとそれも止まる。
冷や汗。嫌な予感がする。心臓がドキドキする。防犯ブザーに手を伸ばす。
いやだめだ。トロトロだったら防犯ブザーは逆効果だ。「アツシアツシアツシ」とくり返し唱える準備をする。
そして……。トントン。肩を叩かれた。
「お嬢さん、当職と遊ばないナリか?」
奇妙で気持ち悪い声。後ろを振り返ると、みっちゃんが言っていたのと同じ男がいた。
私はゆっくりと口に出した。「アツシアツシアツシ」と。