豪流 (44)

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13 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/06/15(日) 15:40:59 ID:9bofi0Xs

翌日、貴洋は事務所で頭をもたげていた。

その悄悄たる面持ちの理由は依頼者が来ない。切実な問題であった。
正直生まれてから一度もお金に困ったことがないし、今こうして依頼者が来なくても、死ぬまで働かなくても、生活は続けることは出来る。

だが、やはり独力で生計を立てたい。この事務所だって父の愛情の賜物ものだ。
貴洋は親の愛に心苦しさを感じていた。
それに何より、近頃は父親に自分の体たらくの皺寄せが来ているのが許せなかった。

自分の愚かさに腹が立つ。何としてもこれ以上迷惑をかけないよう脱却せねば。
待てども、客は来ない。
待っていたって仕方のないことだ。


事務員に外回りにいくとだけ伝えて、貴洋は事務所を出た。

かと言って、アポ無しで営業をしたことはない。
いつも父に酒の席で依頼人を貴洋は斡旋してもらっていた。
法人に自分から売り込みに出向いたことはないのだ。

度胸というものを今までの人生でつけてこなかった後悔が鉛となって、背中に重くのしかかる。

厚史、情けない兄を許してくれ。
虎ノ門の空の下、影をたたえた男の姿は体格よりずっと小さく見えた。

(続)