豪流 (44)

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1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/06/13(金) 21:27:42 ID:griYu08o

貴洋は単身、郊外ある墓地に足を運んでいた。
まだ7月ではないが酷く空気は蒸していて、ダボダボなはずのポロシャツが水着のように体にひっつく。
大小違う墓標の間を縫い、線香とライターを握りライターの方をカチカチと鳴らしながら歩く。
セミがない季節の墓場は陸の海のように静かだ。

すでに真夏日のような暑さ、盆と錯覚してしまう。
何故こんな時期に墓参りに来たかというと、確認にきたといえばよいだろうか。
最近、貴洋は反省を味わったからだ。


実は弟の事を少しずつ忘れかけているのだ。


先週、実家の自室に物を取りに行った時のことだった。
机の上に立てかけてある自分と少年の写真を見て、いつ誰と撮った時のことか思い出せなかった。
それが弟との思い出のものだというのに。

それからは出来るだけ弟との思い出を振り返る努力をすることにした。


すぐに厚史が死んで以来入っていない彼の部屋に入った。
そこら中ひっくり返し、彼の所持品を眺め一つ一つ覚えなおすことにした。
たくさん部屋のものを動かし、汗をかく。


貴洋は本棚から筆まめな厚史がつけていた分厚い日記に心苦しながら手を伸ばしめくった。
厚史の箇条書きな出来事を記しただけの日記に少し笑みをこぼしつつ、
自殺をする前夜のページが白だったのを確認し、棚に日記帳を戻そうとした時それを見つけた。


元の日記帳の裏にまた別の日記帳があった。

めくるとページこそ白だったものの日付だけが書き込まれていた。
次の日記まで先に用意してた弟の周到さに少し、感心した。


しかしそれがふつうの代物でないのが分かった。


棚の奥をさらに掘ると20年分の日付が続いた日記帳が、棚から次々見つかったのだ。


一番新しい日記の表紙にはこう書かれていた。

「20年後の君へ」

(続く)