あなたの側に射る弁護士がいます。 (9)

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2 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/05/23(金) 08:46:23 ID:7g9Iuj8I

誰もいない。ただひと気の無い通りがどこまでも続いている。スーツ姿の男は首をかしげると、また正面に向き直った。
ふと、何かが鋭い風の音と共に男の頬をかすめていく。思わず男は右手で頬を撫でた。
指先が輪郭の表面をぬめる様に滑った。妙な感触である。男は手のひらを自身へと向け、そして立ち止まった。
顔の前にかざした手のひら、その指先から手首に向かって粘質な液体が伝っていくのを、男は見ていた。
血だ。男はしばらく固まった後、弾かれたように辺りを見渡すと、走り出した。なかば転げ落ちるかのように灰色の地面を駆け出した。
そうして沈黙した路地、その遥か後方の電信柱の影にのそりと動くものがあった。どうやら異国の人間である。彫りの深い面立ちを陰鬱に俯かせ、なにやらブツブツと呟きながら、やがて走りだした。男の前方、先ほどスーツ姿の男の頬をかすめていった何かが、ブロック塀に突き立っている。それはスコップだった。
異国の男はそれを音も無く引き抜くと、曲がり角に消えていった。