暗黒庭園 (92)

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76 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/06/07(土) 00:56:10 ID:QDkwLSms

唐澤先生と厚史少年、山内刑事がほっと一息ついて話しているところに、
一人の警官が息せき切ってやってきます。
なにやら相当慌てているようです。何があったのでしょう。
「大変です、賊が、賊が」
「おや、一体どうしたというのだね」
山内刑事は相変わらずのんきに答えます。
「大変なんです、とにかくこちらにいらしてください」
「まさか、賊が。何があったのだね」
警官は混乱して事態をうまく説明できないようです。
とにかくついて来てほしいというその警官に続いて山内刑事も走り出します。
唐澤先生と厚史少年も、それについていこうとしましたが、それを山内刑事が制止します。
「ああ、これは我々警察の仕事です。取り逃がしたとなれば、我々の失態となるわけです。
ここはどうか我々におまかせ下さい」
そういうと山内刑事は林の中へと駆けて消えてゆきました。
「先生、一体なにが起こったのでしょうか」
厚史少年が先生に尋ねます。
「おそらく賊が消えたのだろう」
「ええっ、消えたっていったって、ここにはこんなにたくさん警察官がいるじゃないですか。
ぐるりと囲まれているようなものですよ、そこをどうやって手負いの賊が抜け出せるというんですか」
「簡単な事さ。二次元的思考でうまくゆかないなら、三次元的発想をすればいいのさ。
今、山内刑事が走っていったが、あれでは賊を捕まえることはできないね。
賊はかなり賢いやつだ。こうなったときのための手も考えているはずさ」
先生のいう三次元的発想とは一体なんのことでしょうか。
これには厚史少年もひっかかったようです。
「その発想とは一体どういうことですか」
「そろそろ分かるんじゃないかな」
唐澤先生がそういった時です。
いきなり、歓声があがりました。いえ、そう表現するのは適切ではないでしょう。
それはそこにいたたくさんの警官たちが発した驚きの声だったのです。
そして厚史少年もその声をあげることになります。
「あ、あれは、先生あれを見てください」
厚史少年は指を指します。
その先は空です。そして、一つの気球がぐんぐんと空へ昇っていくではないですか。
そうです、先生の言っていた三次元的発想というのは、地上を逃げるのではなく空を逃げるということだったのです。
それを見ながら先生は、少し笑います。
「ははは。いやあ、あれじゃ捕まえられないね」
なんとのんきな反応ではないですか。一体、どうしたのでしょうか。
「空をいかれたら僕達じゃ追いつけないからね。賊は賢いね」
「先生、何をおっしゃってるんですか。追いかけないと」
「うん、そうだね。あの気球にはもう追いつけない。けど、賊は捕まえることにしようか」
先生は賊を捕まえると言っています。ですが、そんなことできるのでしょうか。
二人のもとに、先ほど警官と林の中へ入っていった山内刑事が走ってやってきます。
「先生、どうしましょう、大変です。あれじゃあ、捕まえられませんよ」
「とりあえず気球を追跡することにしようか。そうすれば、何か分かるかもしれない。
自動車を出してくれないか、さあ、賊を捕まえようじゃないか」
唐澤先生は何を考えているのでしょうか。空を逃げられたら捕まえられないと自分で言ったのを忘れたのでしょうか。
近くにいた警官を運転手にし、厚史少年は助手席に、唐澤先生と山内刑事は後部座席へ座ります。
これから、勝てそうにない気球対自動車の追跡劇が始まるのでしょうか。

(続く)