70 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/06/03(火) 20:28:38 ID:yoQThBx.
先生と厚史少年は制服の警官たちが暗黒弁護士を追いかけるのをみるとその追跡を彼らに任せ、
山内刑事のもとへと走っていきます。
「いやー、ふたりとも大丈夫でしたかな」
山内刑事は快活な笑みを浮かべて、二人に話しかけます。
「ああ、ありがとう。助かったよ」
「本当にありがとうございます。ですが、一体どういうわけでここまで来れたのですか」
「どういう意味かな、厚史くん」
「ですから、どうしてここに僕達がいるとわかったのでしょうか」
やはり、厚史少年も山内刑事がそこにいることが不思議でならないといった様子です。
「それだったら唐澤先生の残してくれた手がかりのおかげだよ」
「手がかりとはなんですか」
厚史少年は首をかしげます。それをみて、唐澤先生はポケットに手を入れなにやら取り出して少年に見せます。
「山内刑事が言っているのは、ほら、これさ」
それは小さなガラス球でした。
皆さんもビー玉で遊んだことがあるでしょう。あのビー玉よりもずっと小さい、キラキラとしたガラス球がいくつも先生の手の中にありました。
「これがいったいどうしたのですか、先生」
「これをここにくる道すがら撒いていたというわけさ」
唐澤先生の説明によるとこうです。
先生は、賊が運転し、厚史少年を乗せここまで連れてきた自動車の後部座席で、厚史少年に右手で拳銃を向けながら
左手は外に出しそのガラス球を少しずつ落としていたということです。
そういえば、厚史少年を車に乗せていたときの、先生扮する賊の一人は、窓から手と顔を出しやたらと外を気にしていましたね。
なるほど、あれにはそういう意味があったのです。
「ヘンゼルとグレーテルという童話を知っているだろ。あれにアイディアを借りたのさ。
もっとも、あの童話ではパンを撒いてしまうから鳥に食べられ、家に帰ることはできなくなってしまうけどな。
ガラス球を撒いたわけは鳥に食べられることはないという意味はもちろんあるのだが、もう一つ大事な意味があってね」
先生はそう言いながら持っていたガラス球をパラパラと地面に撒きます。
そして、懐中電灯を取り出すと、その地面に光を当てます。
すると、地面がキラキラと光りだしました。そうです、ガラス球が懐中電灯の光を反射しているのです。
「こうやって光を当てると、ガラスだから反射するのさ。
もしこれが昼間だったら、周りも明るいから目立たないのだが、しかし夜だとこうなるというわけなんだよ」
「ええ、それで我々は自動車のライトをつけながら、そのキラキラを追いかけてここまで来たのだよ」
なんという知恵でしょうか。夜の暗さを利用して、先生は山内刑事に道を教えたのです。
そして山内刑事にも拍手を送るべきでしょう。そのことに気がついて、見事ここまで辿り着いたのです。
並大抵の人ではこうは行きません。
「それで山内刑事、あそこに地下室へと続く入り口があるからそこも捜査したまえ。
そこの牢にかたわが何人か監禁されているから、彼らも助けてあげたまえ」
「おおそうですか、分かりました。早速、何人か送って助けてあげましょう」
山内刑事は部下に、かたわを助けるように指示を出します。そして、安心しきった様子で言います。
「そろそろ賊が捕まっている頃ですかね」
だいぶのんきなようですが、あの暗黒弁護士がそんなに簡単に捕まるでしょうか。
何かあっと驚くような手を、あの賊のことですから、隠しているかもしれません。
(次号へ続く)