69 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/06/03(火) 20:11:58 ID:yoQThBx.
さっと飛び出した賊は林の中を身をかがめながら駆けていきます。
左手を怪我しているのでそれを庇ってはいるものの、それでもその速さはすさまじいのです。
遅れて飛び出した先生と厚史少年が賊を追いかけます。
しかし、賊にとってその林はよく知ったところですから、すいすいと木の中を駆け抜け、
後から追いかける二人は賊を見失わないようにと気をつける必要もあるものですから
なかなか追い付くことが出来ません。
「先生、このままじゃあいつに逃げられてしまいます」
心配になった厚史少年が、走りながら唐澤先生に話しかけます。
「このままだったら逃げられてしまうかもね」
「えっ、このままだったら、というのはどういうことですか」
そんな話を二人がしているとき、賊は林を抜けてひらけた場所に出ました。
道路があり、すこし行けば住宅地へと抜けることが出来そうです。
もしこのすばしっこい暗黒弁護士が、道路が複雑に入り組んだ住宅地へと出てしまったらどうなるでしょうか。
あの二人とはいえ追いつくことは難しいでしょう。
林だったら遠くに人影をみたり、草木をかきわける音が聞こえますから、なんとか追跡することができます。
しかし住宅地となるとそうはいきません。
しかも、もっとも恐ろしいのは暗黒弁護士がどこかの家に入り、そこの住人を人質にとることです。
そんな事態はなんとしても避けなければなりません。
「ああっ、先生、まずいですよ。賊が行ってしまいます」
厚史少年が林を抜けた暗黒弁護士を見ながら声をあげます。
その時です。賊が行こうとしている道路の向こうから自動車がやってくる音が聞こえました。
もしかしたら賊の仲間のものでしょうか。
だとすると、それに乗って逃げることが出来てしまいます。
ですが安心したことにそれは賊の仲間ではないようです。その音にびっくりした様子を見せたからです。
賊は一瞬ぎょっとした表情をしましたが、気にせずに行こうとします。
しかし立ち止まらざるを得ませんでした。
その自動車の音は、一台のものではなかったのです。
何台もの自動車が低い音を出しながら近づいて来たのです。
その自動車が遠くにあった時は、周りが暗いものですからはっきりとはわかりませんでしたが、
近づいた今や、その正体がわかります。
それはなんと警察の車両だったのです。
暗黒弁護士の近くに、車両は止まり、一斉に扉が開き制服を着た警察官がわーっと暗黒弁護士に向かって跳びかかりました。
賊はぐるっと身を翻すと、林でも道路の方向でもない方へと逃げようとします。
おまわりさん達が賊を追いかけていくのを見ながら、車両の一台から見覚えのある男が登場しました。
そうです、山内刑事です。
一体、どうして山内刑事はここに賊がいるということを知っていたのでしょうか。
(続く)