48 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/05/26(月) 22:11:18 ID:j8mWufJs
厚史少年の震えはとまりません。
とめようとしたってとまりません。
先生が助けに来てくれる気配はありません。
しかし、それでも、それでも涙は流しませんでした。
自分は最後まで、あの名探偵唐澤先生の弟子なのだという矜持がそれをこらえさせました。
「心臓を撃ち抜けば顔はきれいなままで死ねるだろう。あとの処理は我々に任せたまえ」
厚史少年は暗黒弁護士の顔を睨みつけます。賊の目をじっと見つめます。
僕が死んだって、きっと先生がお前らを捕まえるぞ。
そう気持ちを込めた視線を送ります。
厚史少年は目をそらしません。厚史少年はまばたきもしません。
暗黒弁護士をそのつぶらな目で、ぎろっと睨みつけてやるのです。
今、この場でもっとも存在感のあるのは主導権を握っている暗黒弁護士ではなく、おそらく厚史少年でしょう。
暗黒弁護士も厚史少年のそのような視線に少したじろぎます。
「うむ、さすがにあの唐澤の弟子だな。度胸はあるようだ。
しかし、だからといって解放したりはしない。
私は暗黒庭園をつくり上げるのだ。
厚史くん、君がその庭園を飾る花の第一号になるのだよ。いや第一輪と呼ぶべきかな」
暗黒弁護士は睨みつける厚史少年の目を睨み返します。
そして、もう一人の賊に向かって命令します。
「撃て」
もう一人の賊はそれに従います。
発砲音が響きます。
倒れる音が響きます。
広い地下空間にそれらの音が何重にも重なってこだまします。
厚史少年は賊の凶弾に斃れてしまったのでしょうか。
いや、少し待ってください。
何かがおかしいです。
声が聞こえます。うめき声が聞こえます。これはおかしいです。
なぜなら、賊は厚史少年の心臓を撃ちぬいたはずです。
だとしたら、即死するわけですから、うめき声など聞こえる道理はありません。
あっ、もしかしたら、賊のもう一人は拳銃に不慣れで厚史少年の心臓から外して撃ってしまったのかもしれません。
だとしたらまだ厚史少年は助かります。
「くそっ、くそっ」
うめき声の主は苦しそうに叫びます。
「なぜ。なぜだ。なぜ私を撃った。なぜ私を裏切ったのだ」
いえ、倒れているのは厚史少年ではなありません。
ああ、そうです、このうめき声の主はほかならぬ暗黒弁護士だったのです。
一体、何が起こったのでしょうか。
どうして、賊の仲間は暗黒弁護士を裏切ったのでしょうか。
みなさんも少し考えてみてください。
(次号へ続く)