47 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/05/26(月) 21:58:46 ID:j8mWufJs
そこには大きな空間が広がっていました。
外国には地下街というものがあるということは聞いたことがあるでしょうか。
地下に大きな穴を掘り、そこに街をまるまる一個作ってしまうのです。
地下は誰のものでもないので、そこをどうしようとも文句を言われないわけです。
暗黒弁護士が連れてきた空間は、さすがに街というわけではありません。
ただ、広い空間が広がっているだけです。
ところどころに明かりが灯り、あたりを薄暗く照らしていますが、遠くまではっきりとみることはできません。
満月の夜くらいの明るさでしょうか。少し先はもう見ることができません。
この空間は一体なんなのでしょうか。これが賊のいう『暗黒庭園』なのでしょうか。
「ははは。どうだい驚いたかい。これが君に見せたかったものだ。これが私の自慢の『暗黒庭園』だよ」
やはりそのようです。なるほど、確かに暗いわけですから暗黒の世界になっているわけです。
「庭園というのは普通、どういうものかね。
そう、花や草木が生い茂り、明るい陽の光が差し込み、小鳥たちがさえずる。
そういうものだ。しかし、ここは違う。庭園は庭園でも暗黒なのだ。
私はここに、もう一つの庭園をつくろうと思っている。誰も見たことがないもう一つの庭園をだ。
庭園なのだから花が必要だ。そして、ここでの花というのはそう、君は分かっているだろ」
暗黒弁護士がにやりと口元を歪め、厚史少年の顔を覗き込みささやくように言います。
「君たち、子供だよ。それをこの庭園に集めるのだ」
そう言いながら暗黒弁護士は厚史少年の頬をなでるように触ります。
厚史少年は身をよじってそれから逃れようとしますが、賊に無理やり顔を掴まれ元に戻されます。
「君たち花々は私のために咲き誇るのだ」
ああ、なんと気の狂った計画なのでしょう。
そのために東京の地下にこんな空間を作り、少年少女を誘拐したというのでしょうか。
しかし、暗黒弁護士の話はこれだけではないようです。まだ続けます。
「しかしだね、やはり花だけだと飽きてしまう。娯楽というか、なにか別のものも必要だとは思わないかい」
そう言いながら、暗黒庭園のどこかへと案内するように厚史少年を引き連れます。
そこには檻がありました。動物園にあるような檻です。そして、そこには住人がすでにいるようです。
動物でしょうか。犬や猫でしょうか。いえ、もしかしたら虎や猿のような凶暴な動物かもしれません。
いえ、しかしもっと恐ろしいものがそこにいたのです。
「ほらみたまえ。これはかたわの群れだよ」
なんと恐ろしいことでしょう。なんとおぞましいことでしょう。
皆さんは「かたわ」というのをみたことがあるでしょうか。
病気や事故で五体満足ではなくなってしまった人のことです。
浅草などの見世物小屋でみたことがあるという人もいるかもしれません。
この暗黒弁護士は、そういったかたわの人を檻の中に閉じ込めているのです。
「どうだ面白い光景だろう。彼らをみると、自分たちがいかに正常かはっきりと確認することができる。
このかたわどもはね、金で買ったのさ。こいつらの家族もかたわなんて手放したいと思っているからね、簡単に譲ってくれたよ。
一日に一度餌をくれてやればいい。猫や犬よりもよっぽど飼うのは楽さ」
檻の中のかたわたちは弱々しくなにかうーうー唸っています。しかし、それは言葉にはなっていません。
厚史少年はその光景をみて心底ぞっとしました。あまりにも狂気じみていると感じました。
今まで味わったことのない恐怖でした。
なんていう気違いに自分は捕らえられてしまったのかと思いました。
厚史少年の足は震えだします。泣き叫びたくなりますが、グッと堪えます。
唐澤先生。そう叫びたくなる気持ちをどうにかこうにかおさえつけます。
「そうそう。君たちは花だと言ったね。しかし、成長すると醜くなる。枯れてしまうわけだ。
どうやってその美しさを保てばいいと思うかね。ふふ、押し花と同じだよ。
死んでしまえばいいのだ」
そう言ってもう一人の賊に目で合図を送ります。もう一人の賊は拳銃を静かに厚史少年に向け心臓を狙います。
「エジプトにミイラというのがある。代々の王様の死体を保存したものだ。腐らないように内蔵や脳みそを掻きだして乾燥させるのだ。
しかし、それは古代の話だ。今はもっと簡単な方法がある。蝋人形にしてあげるのさ」