27 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/05/16(金) 18:24:22 ID:4lo.vv4s
扉が開くと矢も盾もたまらずみんな飛び出していきます。
しかし、厚史少年だけは部屋の中で身を潜めてじっとしています。なにをするつもりなのでしょうか。
「やいやい、まてまて。お前らそこでじっとしていろよ。
まあ、そうはいっても鍵は私が持っているから簡単に移動はできないのだがね」
暗黒弁護士は部屋の外に出て行った子供達にそう告げると、部屋の中を覗き込みます。
部屋の奥に赤い光がちろちろと揺れ、白い煙がもくもくと立っています。
「ああ、なんてことだ。一体どうして火なんか起きたのだろう」
暗黒弁護士は嘆息しながら、その火元に近づきます。
そうして気が付きます。ああ、この火は火などではないのです。
皆さんには既にお知らせしていますが、これは厚史少年の仕掛けた「魔法」だったのです。
しかし、暗黒弁護士がこのことに気がついたのは、たった今のことです。
「おいなんだこれは。火じゃないなじゃないか。これは懐中電灯に赤いセロハンを被せたのと、
花火の煙玉じゃないか。畜生、騙されたのか」
しかし、時既に遅く、そんな暗黒弁護士に部屋の隅で身を潜めていた厚史少年が襲いかかります。
「おいなんだお前は」
暗黒弁護士が厚史少年に怒鳴りつけますが、全く怯みません。
右手に掴んでいた何かをばさっと賊の顔のあたりにふりかけました。
途端、賊は咳をげほげほと大変しながら、目のあたりを抑えてうずくまりうめき声をあげます。
「僕が今お前にまいたのは唐辛子の粉さ。どうだ苦しいだろう」
そういいながらスカートの中から縄を二本取り出すと、あっというまに暗黒弁護士の両手足を縛り上げてしまったではないですか。
唐澤洋先生の弟子である厚史少年とはいえ、普通だったら大の大人相手にこんな大捕り物をするのは不可能でしょう。
ですが、賊は今や唐辛子の粉を顔に食らって、弱り切っていたので、なんなく縛り上げることに成功したわけです。
「くそっ。くそっ。ガキにしてやられたのか」
暗黒弁護士は悔しがって言います。
厚史少年はそれに答えることなく、賊の服をガサゴソとまさぐると鍵の束を取り出します。
そして部屋の外へと出ようとします。ですが、そのとき暗黒弁護士が語りかけます。
「やい、待て。お前のようなやつはさらってこなかったはずだ。一体誰なんだ」
「僕は厚史さ。唐澤洋先生の助手だよ」
微笑を浮かべながら賊の問いかけに答え部屋の外にでると、鍵をガチャリとかけてしまいます。
「子供達を閉じ込めていた牢に自分が閉じ込められる気分はどうだい」
部屋の中にいる暗黒弁護士に向かってそう告げた後、その場にいた子供達の方を向いて言います。
「さあ、お家に帰ろうじゃないか。鍵もここにあるしね」
みんなの顔がぱあっと明るくなります。やっとあの暗い部屋から抜けだして、大好きなお父さんとお母さんが待つ温かい家に帰ることができるのです。
厚史少年を先頭にみんなが歩き出します。
しかし、本当にこれで賊を出し抜いてやったことになったのでしょうか。
なにか私たちは見落としていないでしょうか。
賊が一人だけだと誰が決めたのでしょうか。
(続く)