1 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/04/25(金) 01:20:12 ID:3JfS5oW.
『壷』
桜が散るか散らないかという頃のこと、H氏は散歩をし街の中央にある広場へとやってきた。
ここではいろいろな店が出ていて人々が行き交っており、その様子をベンチに座りながら見るのがH氏の日課だった。
いつものように腰を掛けあたりを見回すと、見慣れた店の中に初めて見る店があった。
客は誰も立ち寄っていないようで、骨董品を売っているようだ。
そこで売られている品々にすこし興味が出たH氏は冷やかすつもりで近づいてみた。
フードを深く被った男が店番をしているがH氏に気づく様子はない。
「これは何を売っておられるんですか」
H氏は話しかけてみる。
「みての通り壷ですよ」
男はH氏に気が付き答える。
「壷ですか。どうです、売れていますか」
「いやはや困ったものでこれがなかなか売れませんで」
客がいないのだから仕方がない。暇つぶしとばかり質問を続ける。
「どういった経緯の壷なんですか」
「これは悪魔を呼び出すための壷なんですよ」
「はあ、悪魔ですか」
まったく、怪しげなのを売る輩もいるもんだとH氏は思ったが、少しずつその壷に興味が出てきた。
「ちなみにおいくらなんでしょうか」
その答えは一日の食費程度で、H氏の予想に対して随分と安く拍子抜けしてしまった。
悪魔、と言う言葉を聞いていたので、その壷に対してどうしようもなく興味が出てしまい
騙されていると知りつつも購入の衝動に襲われ、最終的にその壷を買う決意をしてしまう。
「では私がいただきましょう」
「お買い上げありがとうございます。ただし、これは悪魔の壷ですから割ったりしないでください」
2 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/04/25(金) 01:29:45 ID:3JfS5oW.
家に帰ったH氏は、早速とばかり壷を床に叩きつけて割ってしまう。
壷の破片が散乱する。
しかし何も起こらない。
予想通り騙されたのだと気づいたH氏は、とりあえずさっきの店に文句を言おうと再び出かける用意をする。
と、そのとき家のチャイムがなった。
一体誰だろうとドアを開けると小太りの男がいた。
「当職は弁護士をやっております。さて、なにかお困りではないですか」
「いや、特にはないが」
「おやおや、そちらに壷が割れていますね。なにか困りごとがあったのではないですか?」
ふむ、と考えたH氏は、そうだこの弁護士を連れて先ほどの店へ行き
文句をつけてやろうと考え、そのことをこの弁護士に話した。
「わかりました、当職にお任せください」
「ところで費用はいくらかかるのかね」
「いえいえ、ただで行っております」
ふと怪しさを感じたH氏であったがとりあえず頼むことにする。
広場にはまだ先ほどの店はあり、店番に文句をつけた。
「やいやい、さっきの壷だがなんだあれは」
「え、そうおっしゃいますと」
「悪魔なんて出てきやしなかったぞ、嘘つきめ」
「おかしいですねそんなはずは。まさか」
「まさかなんだというのだね」
「もしかして割ってしまったのではないですか」
「割ったら悪魔が出てくるのではないのかね」
H氏が苦情を言うが、店番はのらりくらりとかわして答える。
そこに弁護士が割って入りH氏の主張を繰り返す。
4 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/04/25(金) 01:40:09 ID:3JfS5oW.
「これが私の弁護士だ。さあ、反論したまえ」
H氏は勝った様子で店番に言い放つが、しかし店番は首を傾げている。
「はて、弁護士とはどこに」
「ここにいるじゃないか。君の目の前だよ」
「いやしかし私にはお客様の姿しか見えませんが」
H氏はどきりとして弁護士の方を見る。
たしかに小太りですこし笑みを浮かべ頬を染めているが、それがすこし人間ではない印象を与える。
もしかしてこれが悪魔なのではないか。
そういえば悪魔は黒いというが、この弁護士も黒いスーツを着ている。
悪魔が私をからかっているのだ。
そう考えたH氏は悲鳴を上げながら家に走り帰ってしまった。
「やれやれちょろい商売だねこれは」
「当職のことを勝手に悪魔だと考えてくれるなんてね」
店番と弁護士が話している。
「クズみたいなやすい壷を少し値段を上げて安く売るだけさ」
「後は当職がもう一回あの家に行って脅かしてやればいい」
「そうすりゃ勝手に更に金を献上してくれるんだから」
「普通に稼ぐんじゃなかなかうまく行かないからね、こういうことも必要さ」
「本職の弁護士業でも同じことやればいいじゃないか」
「もちろん、もう同じようなことはやってるよ。簡単な仕事だね」
そういう世の中なのだ。
5 - 名前が出りゅ!出りゅよ! 2014/04/25(金) 02:05:05 ID:PDrb5Rc.
洋が速攻で割る前提で貴洋が派遣されててワロタ