286 - ヽ ( (c :; ]ミノ 2016/12/11(日) 15:06:08.93 ID:fo/zQpa20
そこには湯気を立てて輝く肉丼があった。出所のわからない白身がかかっていたが、それがなんであるか類推するのは止すことにした。
「ああこれはうまそうだ。Yさんの分もありますがどうします?遠くからお越しで腹も減っているでしょう。」
確かに腹は減っていたが、どちらかといえばこのまま餓死してしまいたい気分であったので、そのまま押し黙っていることにした。
「まあ食べたくなったら一声かけてくださいな。しかしこれは何丼と呼ぶべきなんでしょうなあ。一見すると親子丼だが、しかしこれを親子丼と呼ぶには問題がある。
まず肉と白身は出所が同じだから親子ではない。いうなれば子子丼だろうか。いや、精子を子供とするか否かは重要な問題だ。
ここで染色体数を考えてみよう。ヒトは2つで1対の染色体を持つから2nだが、一方で精子は片方をほどいて生成されるからn、ヒトと精子は根本的に違う生物といえるだろう」
「さらに言えば肉の方も問題だ。法律家としては特にこちらを話題としたい。胎児は人に分類されるのか?昭和7年の判例で言えば胎児というのは法律上の権利を持たないとされている。ということは社会通念上胎児は人ではないということだろうか?
だがしかし出生した時点で法定代理人を持つ権利が存在するという解釈も存在するし、判例自体に対する反対意見も根強くある。そうするとこの胎児は子になるのかならないのか。そうだ、Y君はT大卒のエリートだそうじゃないか。君はどう思うかね?」
私は自分の頭蓋の中で何かが溶けていくのを感じた。奥を見ると女性がパソコンに向かってひたすら嘔吐している。もう半分くらい溶けだしただろうか。だんだん自分の見ているものの形が分からなくなってきた。自分は何故ここに来たのか。目の前の男は誰か。奥で気絶する老人は何者だ。何かが近づいてくる。何かを振りかざす。目の前が黒でいっぱいになった。
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