282 - ヽ ( (c :; ]ミノ 2016/12/11(日) 15:04:56.85 ID:fo/zQpa20
私がこの法律事務所で働くことになったのには、何と言っても尊敬するHさんの誘いがあったからだ。
少し前の企業買収事件で氏の活躍をこの目で見た私にとって、これから先同じ職場で働けることは何よりの幸せである。
期待を胸に目的のビルに足を踏み入れる。案内状を頼りに目的の階を探すが、同じ名前の部屋が二つあるためどちらなのか少時迷ってしまった。
インターホンを押すと、「要件はなんですか?」忙しそうな、社会性のない幼い感じのする声が早口に尋ねたので、こちらも要件を述べると二つ返事に鍵を開けてくれた。
ただその声の裏で聞き覚えのある声色が何やら絶叫している気がしたが、きっと風がそうさせるのだと思い詮索は止すことにした。
エレベーターで3つ階を過ぎ、鈴の鳴る音と共にその部屋の扉を開けた。
「ああダメっ!出りゅ!出りゅよ!」
最初に聞こえたのは敬愛するHさんの発する嬌声だった。そして二番目には彼に向かってひたすら手淫を施す男の涼しげな声だった。
「あ、ようこそいらっしゃいました。今お茶を用意させます。」
見ると奥から、目のハイライトが消え、脳の機能を意図的に停止させているように見える女性が湯呑を片手にこちらに向かい、無言で手近なサイドテーブルを指差している。
私は目の前で起きている事変をなるべく避けるようにしてサイドテーブルへ向かい、腰を下ろした。
私はほぼ反射神経に従うような形で彼に尋ねた。「あの、何をなさっているんで?」
「ああ、今父を妊娠させていまして。」
天地の引っ繰り返る幻覚に耐えながら、脳内でまず最初の疑問を整理した。
どうも彼はHさんの息子なようだ。氏の業績を知っている私としてはまるで信じられない話だったが、やはり客観的な事実として信用するしかなかった。これがかねがね氏のおっしゃっていたT氏だそうである。