雑談★1 (1000)

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24 - 塘懌䝿拝 2013/08/16(金) 03:07:21 ID:UAWLwWv6

「兄を馬鹿にするな!」
敦史は怒鳴り声を上げた。あんな無能で、引きこもりの兄の事などどうでもいい、はずだった。しかし、気付く、兄を愛していると、そして悪いもの達に、怒気を発しながら声を張り上げていた。
驚いたのは、悪いもの達だ。普段は温厚で、人当たりが良く、滅多に怒る事のない敦史が声を荒げたのだから。驚くと同時に、自分達が辱められた気がして、怒りがこみ上げた。
「だって本当の事だろう?すぐ脱糞する引きこもりの黒人デブ。本当の事を言って何が悪い?」
嘲笑うように言った。
敦史は、喧嘩をした事が無いが、拳を握りしめていた。
(許さない。兄を貶めていいのは俺だけだ。)
敦史と悪いもの達がわずか数間の距離で対峙した。弟は大胆にも、悪いもの達の正面から足早に歩み寄った。ずんずん迫って来る敦史が間合いに入るなり、悪いもの達Aは怒号と共に拳を繰り出した。
敦史は脚を高々と上げ、拳を蹴り払った。
「うっ」
悪いもの達Aが怯んだ時、敦史は蹴りの勢いそのままに一歩踏み出した。懐に入り首を締め落とすつもりでいる。
「ふふ」
笑ったのは悪いもの達Bの方である。
「おい、無能の弟よ、俺たちをそこらのチンピラと間違えるなよ」
言うなり、悪いもの達CとDが、敦史の両脇に回り込み、めきりと音がなるほど両腕を締め上げた。次いで怒号を放つや、圧倒的な怪力で悪いもの達Eが右拳を打ち込んだ。
「なに」
敦史は浮き上がって行く自らの身体に驚愕した。
驚く敦史をよそに、悪いもの達Fは脚を振り上げ、鞠でも蹴り上げるように敦史の身体を宙へと撥ねあげた。
空中で足場もなく逃げる事も出来ない。敦史のまったくの不覚であった。宙へと浮き上がりながら、「精根尽き果てたか、敦史」という悪いもの達の叫び声を聞いた。見下ろすと、悪いもの達Cが構えている。やがて身体が落下へと移ったとき、絶妙の間合いで敦史は宙にいたまま手刀を浴びせられた。
敦史は地に伏せたまま身動きひとつしない。悪いもの達が、虫の息の敦史に歩み寄ろうとした。だが、人影が彼らを遮った。
「まさか」
見れば高広であった。しかし、彼らの知る、脂肪がのり横幅の大きな身体ではない。極限まで絞られたその身体は、動けばピシリと音がしそうな筋肉に覆われていた。
「貴様ー」
悪いもの達はその体躯を見て唖然とした。この全身を覆う鋼の筋肉。どれほどの鍛錬を積んだのか。(いつの間に…)
「当職の弟が世話になった」
高広はそう言いながら、頸を軽く鳴らした。
「覚悟するナリ、悪いもの達」
不敵に笑うなり、消えた。
いや消えた、としか悪いもの達には思えなかった。だが、網膜に残る僅かな残像は、我が右手へ消え去っている。
(右か) とっさにその方を向いた。しかし、高広の姿はない。その時数間先の地面に土埃があがった。
(左か)素早く首を左手にねじ向けた。この間、一瞬である。
だが、その一瞬の間に、高広は悪いもの達の前方から跳躍し、その右手の地面を蹴り、左の地面をも蹴ってすでに悪いもの達の眼前へと肉薄していた。黒人特有のバネが、それを可能にしていた。
(なんだと)
わずか数寸に迫る高広に、悪いもの達はなす術もない。
「死ね」
高広は冷ややかに呟くや、悪いもの達Dの眼球目掛けて指を突き出した。
悪いもの達Dはほとんど本能が命ずるまま、膝を蹴り上げた。
(ーーーっ)
悪いもの達Dの膝は、高広の睾丸を貫いた。高広が激痛に一瞬目を閉じた瞬間、脱糞し、気を失った。

敦史が気がついた時、目にしたのは一糸纏わず、脱糞している高広だった。
(負けたのか…)
敦史は泣き叫んだ。
涙と糞に塗れながら、高広を担いで家に帰った。
翌日、敦史は自殺した。

この後、暴力では何も解決出来ない事を悟った高広は、弁護士を目指す事になる。
臥薪嘗胆の日々を過ごし、遂に弁護士バッヂを手に入れる高広。弁護士としてのキャリアをスタートさせた高広の前に、あの依頼者が現れる。長谷川凌太だ。
高広の闘いは始まったばかりだ。