10 - 核撃てば尊師 2013/07/11(木) 07:59:48 ID:Ogt02bQv
相変わらず雨は激しいが、風はそれほど強くはない。明日の朝には台風一過となっているだろう。
洋一は嬉しそうにコロッケの入ったスーパーの袋を手に前を歩く。時間も午後8時を過ぎ、周りには人の気配はない。もちろん計画通りだった。
目的の用水路に差し掛かった。用水路は溢れんばかりの濁流や枝切れ、原形を留めないゴミが轟音を上げながら流れている。
そして傘を差したまま、貴洋は洋一を用水路の中へ突き落とした。しかし洋一はなんとか片手で用水路の縁に掴まり、声にならない声で兄に助けを求める。
貴洋は今にも濁流に飲まれんとしている洋一の手に、自分の手を重ねた。すがるようにもがく洋一。
洋一の手を伝ってだろうか、様々な思い出が脳裏をよぎる。洋一はたった一人の、弟だ。でも…
貴洋は覚悟を決めた。
「ごめんよ、洋一」
降りしきる雨の中、洋一の小さな手が用水路の濁流の中に消えていく。
つい先程まで洋一の温もりを感じていた指先も、今は冷たい雨で濡れるだけだ。もう洋一の姿は見えない。
「生きるためには、仕方なかったんだ…」
ああ… 何故こんなにも自分は無力なんだ…。 その瞬間、唐澤少年は弁護士になることを決意した。