565 - 唐睾睾睾 2014/01/09(木) 18:36:33 ID:2zKTg5rI0
ウ 深夜労働についての割増賃金の支払請求(所属長の許可の要否等)について
本件規定所定の「裁量労働適用労働者」は,飽くまで,被告らの就業規則又は原告と被告らとの間の個別労働契約によって「裁量労働適用労働者」とされる者を指す。そして,原告は,専門業務型裁量労働制が適用されるかどうかにかかわらず,本件規定所定の「裁量労働適用労働者」に該当するから,被告らの就業規則又は原告と被告らとの間の労働契約に基づき,休日又は深夜に労働する場合には,あらかじめ所属長の許可を得なければならないとされ,その許可を得て休日又は深夜に業務を行った場合に限り,割増賃金の支払を受け得るものである。
しかるに,被告らが,原告の所属長(大山プリンスパル)をして,原告に対し,深夜に労働することの許可を与えた事実はない。そして,原告がパソコンに向かって何をしているか(私的に利用している可能性もある。),あるいは,被告らの業務を行っているとしてもそれがその時に残業してまで行う必要がある仕事であるかどうかについては,原告自らが明らかにしない限り,上司に分かるはずもなく,上司が原告の作業を止めさせなかったとしても,そのことをもって黙示の許可があったとはいえない。
したがって,被告らは,原告に対し,深夜労働についての割増賃金を支払うべき理由はない。
エ 法定休日労働についての割増賃金の支払請求について
被告らにおいては,法定休日が特定されておらず,週に1日あるいは4週に4日休日が与えられていれば法定休日の要件は満たされるから,日曜日又は土曜日のうち労働しなかった方の日が法定休日となる。したがって,平成22年8月8日(日曜日)及び同月22日(日曜日)は,いずれも法定休日ではないというべきであり,上記両日の労働については,法定休日労働としてではなく,単なる時間外労働としての割増賃金が支払われるにすぎない。
(2)被告らの割増賃金の連帯支払義務について
原告は,被告らそれぞれとの間で労働契約を締結し,被告らそれぞれに対して労務を提供し,それぞれの被告から別々にその対価である賃金を得ていた。被告ら内部における相互の区別が不明確であったことは否めないが,税務相談や税務申告等の税理士法人でなければできない業務については,被告法人として行っていたものであり,原告も,被告法人に対して,その労務を提供していた。明示又は黙示に不可分債務との合意がなされていたという事実はなく,被告らは,原告に対し,賃金及びこれに対する遅延損害金を連帯して支払うべき義務を負わない。
(3)遅延損害金の支払請求について
賃確法6条2項,賃確法施行規則6条は,同法6条1項の適用を除外しているところ,同規則6条5号が除外事由の一つとして「その他前各号に掲げる事由に準ずる事由」を定め,その適用範囲を拡げていることなどに照らせば,同条4号については,裁判所又は労働委員会において,事業主が,確実かつ合理的な根拠資料が存する場合だけでなく,必ずしも合理的な理由がないとはいえない理由に基づき賃金の全部又は一部の存否を争っている場合にも,同法6条1項の適用を除外するものであると解するのが相当である。
本件では,被告らに賃確法施行規則6条4号所定の事由があるといえ,原告の請求に係る割増賃金に対する遅延損害金については,商事法定利率(年6分)によるべきである。
(4)信義則違反の抗弁
以下のア〜オの事情に照らせば,原告の割増賃金請求は,信義則に反するものとして許されない。
ア 原告が被告らにおいて行っていた活動は,被告らの業務の遂行という側面のほか,原告らの勉強ないし修行という側面も有していた。
イ 被告らは,原告について,将来ある税理士の卵として大事に育成してきたものであり,自分の仕事が手一杯の時には,上司から新たな仕事を割り当てられても断ることを認めるなどの配慮をしていた。
ウ 原告は,専門業務型裁量労働制の適用を受けることを前提として被告らと労働契約を締結し,退職時までその待遇に異議を唱えて来なかった。
エ 原告は,公認会計士となる資格を取得するために必要な実務補習を修了していないことをあえて秘して,被告らに雇用された。
オ 原告は,自ら時間外労働等についての割増賃金手当を請求するのみならず,他の退職者らに対しても,被告らに同様の請求をするようそそのかすとともに,その際,被告らの保有する機密文書である「09集計シート」等の各退職者の労働時間主張の基礎となる資料(甲17)を被告らから盗み出して渡した。このような原告の背信的意図に基づく機密保持義務違反行為によって,被告らの元従業員であるD及びEは,被告らを相手方として,時間外労働についての割増賃金を請求する労働審判を申し立て,その後に移行した訴訟の公開の法廷において,原告から提供を受けた上記資料を証拠として提出するに至った。