171 - 核撃てば尊師 2013/05/05(日) 04:46:58 ID:x/5xTvlUO
今にも落ちてきそうな核の下で
用水路の中でガチャガチャと音がするので覗き込むと、少年が水中に散らばった骨の破片を集めている。
前夜に用水路で事故があり、被害者は頭蓋骨が割れるほど殴られていたという。
少年は粉々になった骨片を集めて指紋を採ろうとしていたのだ。
唐澤貴洋は思わず訊いた「犯人が親のコネで無罪になったとしたら。あんたはどう思って…そんな苦労を背負い込んでいるんだ?」
少年は手をとめて答えた「そうだな…わたしは“結果”だけを求めてはいない。
“結果”だけを求めていると、人は近道をしたがるものだ…近道した時真実を見失うかもしれない。
やる気も次第に失せていく。大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている。
向かおうとする意志さえあれば、たとえ今回は犯人が逃げたとしても、
いつかはたどり着くだろう?向かっているわけだからな…違うかい?」
少年の真っ直ぐな瞳を見て、思わず目をそらしうつむく唐澤貴洋「…羨ましいな。
以前オレは…会計士になりたいと思っていた…子供の頃から…ずっと立派な会計士に…なりたかったんだ…。
かつてあんたのような“意志”を抱いていた事もあった…でもだめにしちまった…
オレって人間はな…くだらない男さ、何だって途中で終わっちまう。いつだって途中でだめになっちまう…」
「そんな事はないよ…唐澤貴洋」「え?…」「お前は立派にやってるじゃあないか…“意志”は同じだ…
お前が弁護士になったばかりの時抱いていたその“意志”は…今…お前のその心の中に再び戻っているのだよ…唐澤貴洋」
驚いて息を呑む唐澤貴洋「なんで当職の名を…知っているんだ?…そういや…あんた…前にどこかで会った事が…ある」「……」
唐澤貴洋はヨロヨロと立ち上がり、核兵器のスイッチに向かおうとする「もう行かなくては…当職は優しい世界に戻らなくては…!!」
「忘れたのか唐澤貴洋!?お前は全てを破壊してここに来たのだ。ここは終点なんだ…もう戻る事はできない」
額から汗を流し愕然とする尊師「あ…あんたは…!!そうだ!!あんたはッ!!
あんたは当職が用水路に殴り落として蹴落とし続けたせいで溺れて事故死した…!!」
「唐澤貴洋…お前は立派にやったのだよ…そう…わたしが誇りに思うくらい立派にね…」